企業にとっての「使える」特許とは「同業他社との競争に勝つ」特許である。
ところが、最近公開されているシステム系の出願の中に、実際には「使えない」ものが目に付く。特許請求の範囲(=いわゆる『請求項』)に欠陥を含んでいるためだ。
例えば、あるシステム開発会社が、携帯端末に対するコンテンツ配信サービスを考案し、以下の特許を取得したとする。請求項:「…というプログラムで動作するサーバと、コンテンツを受信する携帯端末とを備える…システム」が、残念なことに、この請求項ではライバル会社のアプリケーションソフトを押さえられない。
なぜなら、権利侵害として認められるためには、原則として同一の実施者が構成要素のすべてを用いて実施していなければならないからだ。
つまり、請求項で「…プログラムで…サーバと、…携帯端末とを備える…」と書いたということは、その構成要素であるプログラム、サーバ、携帯端末、のすべてをライバル会社が実施していなければならない。
しかし、ライバルが「実施」しているのは「プログラム」のみ。「サーバ」と「携帯端末」を実施しているのが別の通信会社である場合、ライバル会社の行為は、権利侵害には当たらないのだ。
それでは、この発明の請求項が「~というプログラムを格納したサーバ」で登録されている場合はどうだろう。
やはり権利行使は難しい。なぜなら、サーバを保有するのは、自社の納品先である通信会社である。顧客に納品するために他社としのぎを削り特許出願をおこなっているのに、その大事な納品先を訴えるのは全く無意味となる。
この出願の目的は「ライバルを押さえる」ことであるから、今回特許請求の範囲は「…プログラム」とすべきだろう。
昨今の「使えない」特許多発の背景には、インターネットを利用したオープンシステムの登場がある。オープンシステムは、従来の「一社が囲い込む」状態と異なり、様々なメーカーのソフトウェアやハードウェアによって構築されている。従って、旧来の権利取得の考え方では対応できないのだ。
「使える」特許にするためには、権利を行使する先はどの会社なのか、その商品の実際の流通経路・利用状況はどのようになっているのか、などの具体的態様を考慮する必要がある。